三親切


江戸から明治にかけての劇作者、河竹黙阿弥の本。
三人吉三や、先日ふれた弁天小僧を書いた人です。

黙阿弥の大事にする事が「三親切」があります。
「役者に親切」「見物に親切」「座元に親切」。

・芝居を演じる役者、その人の個性が引き立つようなものを書く。
・当然それは、見物に来る人にとっても楽しいもの。
・そして、見物が楽しんでくれれば当然売り上げは上がり、座元(興行主)も喜ぶ。

このように、あちらも、こちらも立つように芝居を書けば、自分が本当に書きたかったものではないのではないか?と思うものです。

事実、「自分が書きたいもの」に固執して、一度は売れっ子であったのに後に没落する作者も居ます。

黙阿弥は違います。P126を引用すると

「役者が活き舞台が生きれば、それこそ作者自身がほんとうに生きたことではないか。(中略)黙阿弥が忍をもって小我を滅却し、「三親切」の大我に生き・・・」

まさに、これこそ何を作るにしても大事な事。私にとっては「工場に親切」「買う人に親切」「卸先に親切」を目指しています。

・工場の特性にあった、技術が引き立つものを企画する
・それは、良いものが安くできることにもなり、買っていただくお客様にも買いやすい製品になる
・お客様が買ってくださる製品、これは卸先様も喜ぶ

となるわけです。もちろん、自分が無いのではなく、自分が作りたいものをいかに「三親切」を守って形にするか。ここに、本当のプロの技術が入るのだと思います。

一人で仕事をしていると、つい独りよがりで「ただ、自分が作りたいものを作る」となりそうになりますが、そんな時は、この黙阿弥の「三親切」を思い出し、考え直すようにしています。